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a list apart

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むかしむかし、あるところに

昔々あるところに、ボブという同僚がいました。
ボブは手助けが必要になると、きまって、用件の真ん中から話し始めて、用件の頭とお尻に向かって話をするのでした。
電話にでると、開口一番に彼はこう言うのです。「もしもし、どうも。情報セキュリティ部門が見積もりに間に合うように、こちらに戻してくれ。だから火曜日までにスプレッドシートが必要なんだよ。」

スプレッドシート?」 「見積もり?」 ボブとどちらの話をした覚えもありません。「一体何の話をしているんだ?」とは聞けないような話し方をされます。だからボブから電話が来る度に、電話を切ってから10分間、彼の話した内容を思い出さなければなりませんでした。
たしかに明らかにボブは「助け」が必要です。スプレッドシートより「根本的な助け」を

それから、スーザンという人もいました。スーザンは助けが必要な時、プロジェクトの全容を出来る限り丁寧できっちりとした言葉で説明してくれました。スーザンからのメールはこんな感じでしょうか。

おはようございます。

今、3週間前に開始したスーパー・バナナ・プロジェクトに取り組んでいて、開始以来ゆっくりと進めています。ターゲットの設定から始めて、シナリオの作成を行い、アンケートについても話し合いました。

[プロジェクトの経緯について、もう2段落挿入]

そこでお願いなのですが、できれば (あなたは [私の過去のプロジェクトを時系列順に4つ] の経験がありますから) このプロジェクトに適したコンテンツ一覧テンプレートを使わせてもらえませんか? もしお手間でなければ、お時間がある時に、できるだけ早くテンプレートを送っていただけると助かります。

ご協力に感謝します。

スーザン

「あのさー、スーパー・バナナ・プロジェクトに使えるコンテンツ一覧テンプレート持ってる?」とでも言えば十分であったと思われるメールですが、スーザンはプロであることにこだわりました。
私の方で質問がありでもすれば、彼女はきちんと意思疎通できなかったと考えるでしょう。そして、もちろんのことながら、その失敗は、私たち皆の肩に重くのしかかることになるのです。

ボブとスーザンは、ウサギとカメぐらい性格がかけ離れていますが、2人は同じ問題を共有しています。どちらも川を飛び越えて、森をうまく抜けることができなかったのです。
特に、どちらも文脈をうまく説明して、要点に至ることができていなかったのです。

私たちは皆、効率のよいツールとアプリケーションを作るのに、他人の助けを必要としています。「コミュニケーション・スキル」は、非常に重要であるため、これまでにいくつもの記事が―書籍やトレーニング教室、求職情報は言うまでもなく―「コミュニケーション・スキル」の重要性について強調しているのを目にしてきました。
コミュニケーション能力がなければ、うまく物を作れないばかりか、顧客やユーザーのために適した物をを作ることもできないのです。

とはいえ、文脈を説明するのは、なかなか学ぶのが難しいスキルです。ボブに近づきすぎると、誰も何を言っているかわかってくれません。スーザンをお手本にすると、飽きてしまって、要点に辿り着く前に読むのをやめてしまいます。

同僚に助けを求めるにしても、ユーザーに行動を起こさせるにしても、相手にある特定のやり方で対応してほしいはずです。
そして、ラジオ広告を書いているのであれ、ブログ記事を公開するのであれ、同僚に電話をするのであれ、求める結果を導くためには、文脈を適切に説明しなければなりません。

初心者に最も効果的なテクニックは、私が「昔々あるところに」と呼んでいるプロセスです。

おとぎ話? 本気で言ってるの?

おとぎ話は、最古の形態の民話のひとつで、その歴史はローマ帝国にまでさかのぼると言われています。オックスフォード英語辞典によると、「昔々あるところに」という冒頭文は、紀元前1380年にまでさかのぼるそうです。Wikipediaには、この冒頭文が75以上もの言語で並んでいます。

私たちの多くが、言語や文化にかかわらず、19世紀のグリム兄弟の話から1987年のミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』 に至るまで、何らかのおとぎ話を耳にしたことがあると言っていいでしょう。

どう始まるかもお分かりですね。

昔々あるところに、[ある状況] に置かれた [主人公] がおり、[ある問題を抱えて] いました。[誰か] がそのことを知って、[これらの手順を終える] ために [主人公] を送り出してやりました。主人公は [物事を行う] のですが、[難題を入れる] のせいで、とても困難でした。主人公は [数々の難題] を乗り越えて、皆幸せに暮らしましたとさ。

おとぎ話が、効果的な語りの技術であるのは、まさに物語を理解するために必要な文脈を常に提供してくれる、共通の構造に従っているからなのです。
私たちのすることもほぼ全て、この構造で語ることができます。

昔々あるところに、アンという人が、アイスクリーム・サンドイッチをほしいと思っていました。そのため、アンはソファから立って、冷凍庫へ向かいました。冷凍庫は、食べ物をすごく冷たいままにしてくれるのです。アンは、奥からアイスクリーム・サンドイッチの箱を取り出すために、手を冷たい冷凍庫の中へと突っ込まなければなりませんでした。
アンは冷たさを乗り越えて、おいしいアイスクリーム・サンドイッチを手に入れました! そして皆幸せに暮らしましたとさ。

このおとぎ話の冒頭の構造は、ジャーナリズムで用いられる「5つのW」に、とても似ています。「Who (誰が)?」・「What (何が)?」・ 「When (いつ)?」・「Where (どこで)?」・「Why (なぜ)?」・「How (どのようにして)?」

コミュニケーションを形成する際には、私たちが主人公であり、その状況と問題とを単刀直入に説明する必要があります。
私たちは何かを行うために行動を起こし、困難に行き当たり、今その困難を乗り越えるために特定の手助けを必要としているのです。

私がボブかスーザンだとしたら、これがどう役に立つのか?

ボブが自分の話をする時、彼は「昔々あるところに」からは始めませんでした。彼は物語の半ばから話し始めたのです。
もしボブが赤ずきんちゃんだったとしたら、「ハサミと石が必要です」と、言い始めるようなものです。(ちなみに、このお話で手術がどういうものかが全く理解されていないことに、私は恐ろしさを隠せません)

スーザンが自分の話をする時には、彼女は「昔々あるところに」よりも前から始めました。
彼女が赤ずきんちゃんだったとしたら、自分の両親がどうやって出会って、
どういうお付き合いをしたかなどを延々と話し、それからようやくオオカミのお腹に閉じ込められていると言うようなものです。

私たちが自分の話をするときには、始めから話す必要があります。しかし、早すぎず、遅すぎないところからです。
もしボブに近いのであれば、基本的な事実について伝えるようにしましょう。「自分が誰で」、「何が目標で」、「時としては、誰に頼まれているのか」、「どんな困難に行き当たっているのか」です。もしスーザンに近いなら、必要な事実だけに留めるようにしましょう。

このようにして、おとぎ話のフォーマットを使って、一人称で語ります。スーザンなら、こう書くといいでしょう。

「昔々あるところに、バナナ・チームというチームがあり、私はプロジェクトのコンテンツ戦略を考えるように頼まれました。うまく進んでいたのですが、困難に行き当たりました。コンテンツ一覧のテンプレートがないのです。ボブがあなたに連絡してはどうかと提案してくれました。送ってもらえるようなテンプレートはありますか?」

ボブならこう書けるでしょう。

「昔々あるところに、あなたと私は新しい情報セキュリティ・アプリケーションのデータ・マッピングに取り組んでいました。情報セキュリティ部門は、確認できるように、マッピングを送ってほしいと言ってきました。これは問題です。なぜなら、まだ未完成のスプレッドシートを先方に送るまでに、火曜日までしか時間がないからです。これができなければ、私たちはさらに大きな問題に直面することになります。スプレッドシートがなければ、金曜日にプロジェクト規模の見積もりを出すことができないのです。スプレッドシートを期限内に提出できるよう、手伝ってくれますか?」

おとぎ話とこれらの下書きの類似点に注目してください。「主人公」、「その状況」、「誰に頼まれているか」、「あるいは何が行動の原因となっているのか」、「そして問題を解決するために何が必要なのか」 が分かります。
ボブの場合は、彼が普段伝えるよりも多くの情報が含まれています。スーザンの場合は、情報が普段よりずっと少ないですね。いずれの場合も、状況と依頼の基本的な事を抽出しています。どちらの場合でも、必要な編集は最初の文章から「昔々あるところに」を削除するだけで、すぐに送れる状態です。

でも、こんな場合は…?

私が一緒に仕事をしたことのあるボブのような人たちもスーザンのような人たちも、このテクニックには疑問を示しました。それは特に、どちらのケースにしても、自分たちがそれなりに上手く文脈を説明していると考えていたからです。

スーザンの例には、2点の大きな懸念があり、それによって情報を与えすぎるということが起きていました。1点目は、詳細をひとつ残らず含め、ビジネス上のエチケットのニュアンスを含めないと、プロフェッショナルな感じがしないのでは、というものです。2点目は、もし受け手が質問をしなければならなかったら、彼女が始めから全ての詳細を提示しなかったことで、先方が自分を素人だと考えるのではないか、というものです。

世界にたくさんいるスーザンたち、安心してください。明確で、簡単でわかりやすいコミュニケーションこそがプロフェッショナルなのです。これは、「お願いします」とか「ありがとうございます」と言わない、ということではありません。「もしお手間でなければ、お時間がある時に、できるだけ早く…」というのが、やり過ぎかもしれない、ということです。

さらに、相手の考えうる質問を全て予想できる人はいません。明確なコミュニケーションは、基本的な事柄を説明して、質問を受け付けることで、対話を始めるものです。これは時間の節約にもなります。あなたは、同僚や読者が実際に疑問に思っている質問にのみ答えればいいのですから。ある情報を話に含めるかどうか迷ったら、それがなくても話に整合性があるかを確かめてみてください。

ボブはもっと手強い相手でした。というのも、彼は度々自分が話半ばから始めていることに気づいていなかったからです。ボブは、本当に同僚が自分の話していることを理解できていないことに、当惑しているのです。彼は、ほんの「ちょっとした」質問に対する答えが必要なだけなのです。自分が同僚を混乱させている―時にはうんざりさせてもいる―と気付かせることができれば、さりげない提案で軌道修正ができるでしょう。「そうだね、ボブ、最初から話してみましょう。昔々あるところに、あなたは…?」

最初から始めて、最後で終わる

昔から使われている「昔々あるところに」のフォーマットを使えば、人々に行動を起こしてもらうのに使える、非常に堅固な枠組みとなります。こちらの依頼を理解してもらうために必要な文脈を全て提供するとともに、その依頼について明確で端的な説明ができるのです。

明確で、端的で、文脈を備えたコミュニケーションは、プロフェッショナルで効果的、かつ誰もにとって苛立ちが少なくて済むため、この習慣の基礎が古くさいものに思えるとしても、良い習慣をつけることになるでしょう。

話をする時や、何かお願いをする時に、本当に「昔々あるところに」から始める必要はあるのか? 「損はない」と言っておきましょう。このフレーズは、あなたが自分の文章の書き方、誰に対して書いているのか、何を得たいと考えているのかを考え直す指標なのです。スープに石が不要なように、ビジネス・コミュニケーションにも「昔々あるところに」が不要ではありますが…。

それを使えば、もっと満足のいく締めくくりができるでしょう。

そして、皆幸せに暮らしましたとさ。

 

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